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平岸ハイヤー株式会社 代表取締役・神代晃嗣さん|暮らしやすい街と働きやすく夢のある職場を創る地域密着型タクシー

札幌圏
運輸・物流
平岸ハイヤー株式会社 代表取締役・神代 晃嗣さん

1958年に創業した平岸ハイヤー(札幌市豊平区)は、わずか2台の営業車からスタートし、約200人の従業員を抱える大手に成長。「乗って快適、走って安全、着いて満足」をモットーに、地域の足として活躍してきました。創業者の孫であり6代目経営者の神代晃嗣さんは、さらに地域への貢献をと会社の敷地内でライブホールやバー、屋外マーケットの運営などに取り組んでいます。

赤字体質から脱却し、経営を多角化。コロナ禍を乗り越えて

平岸ハイヤーの本社の外観画像
地元密着型のサービスを提供している平岸ハイヤーの本社

おじいさまが立ち上げた会社を継ぐことは、子供の頃から意識していらしたんですか?

いいえ。以前は東京でミュージシャンを目指していたんです。プロの道を模索しながらバイトに明け暮れていた時に、4代目の父のすい臓がんが発覚して、会社の仕事を手伝うようになりました。父の没後、専業主婦だった母が5代目を務めたのち、私が社長に就任しています。父の「お前の居場所は作ってから死ぬからな」という言葉と、入社当初の先輩たちの「地名を社名にいただいている以上、決して会社の看板に泥を塗るな」という教えは、今も私の中に強烈に残っています。

入社された頃、会社の経営は順調だったのでしょうか?

タクシー業界は厳しい世界で、帝国データバンクで優良企業と認められる会社でも、経常利益は2~3%が限界です。入社当時、当社の自己資本は8割以上ありましたが、赤字続きの経営に危機感を感じました。景気に左右されやすい上、タクシー規制緩和による業界全体の台数の増加などの大きな変化もありましたが、会社の赤字体質を改善して経営を続けてきました。それでも海外からの観光客が増加し、景気の回復の兆しも見えてきた矢先のコロナ禍は本当に大打撃でした。 

飲食店が営業を自粛してしまったからですね。お客様も外出しなければ、タクシーは出番がありませんね。

地域行事への積極的参加や、地域のお子さんたちを見守るスクールガードの活動などで住民の皆様に信頼され、応援していただいたおかげで昼の売り上げは変わらず、コロナ前の売り上げの7割は維持できました。さらにドライバーの売り上げ確保と地域への貢献を兼ね、平岸の飲食店を対象にデリバリー業務も始めました。配達の手が足りないならタクシーが運びますよと。全面休業中だった最初の1カ月は無償で引き受け、飲食店さんとのつながりが生まれました。

「タクシー会社がある街は暮らしやすい」を地域の常識に

平岸タクシーの車輛とスタッフの画像
地元平岸を中心とする札幌市内で営業しています

地元の方にとって、本当に行き届いたサービスを提供しているのですね。

冬場は流しでも十分に稼げますが、迎車に30分かかっても地域の常連さんを大切にしてきました。そういう信頼関係を積み重ね、地域の交通手段として選んでいただいています。常連さんがうちの新人に「平岸ハイヤーの運転手さんはいつもこうなんだよ」と、先輩ドライバーの働く姿勢やサービスについて教えてくださるなど、よいお付き合いができる企業風土が根付き、本当にありがたいですね。

地域との連携を深めた先に、見えているものは何でしょうか?

目標の一つは行政とも連携して、平岸をより暮らしやすい街にすることです。ドライバーは1年365日、24時間走り回っていますし、事務所にも常に人がいます。もしご依頼があれば、一人暮らしのご高齢の方々の安否確認に週1回通うこともできます。夜道を歩いていて危ない目に遭いそうになった時も、会社に駆け込んでいただけたら。

お客さんを運ぶことだけが、タクシー会社の使命ではないということですね。

2018年の北海道胆振東部地震で大停電が発生した際は、会社をスマホの充電スポットとして解放しました。地域のインフラやライフラインも考え、快適な生活を提供していけたらと考えています。例えば、東京に住むお子さんが札幌で暮らすご両親に「住むなら平岸がいいよ」と安心して勧められるように、タクシー会社がある街は治安が良く、安心安全で住みよい街だという感覚を常識にしたいですね。

年齢を問わず働きやすいタクシー業界に、もっと注目を

平岸タクシーの車輛が並んでいる様子
タクシー車両73台、ハイヤー車両5台を保有(2024年1月現在)

社内でも独自の取り組みがいろいろあるのでしょうか?

この業界では珍しく、ドライバーは班体制で動いています。約20人で一つの班とし、情報交換したり、事故防止対策を徹底したり、自主的に運営もしています。新人ドライバーは最初新人ばかりの班で経験を積み、各班に振り分けて先輩と後輩の縦の関係を作ります。車に乗ってハンドルを握れば、近くには同僚も上司もいません。接客するのも経路を考えるのも、会計をするのも全部一人。だからこそ職場の連帯感を感じ、「自分は一人じゃない」という意識を持てるようにしたいのです。

ドライバーさんたちが働きやすそうです。

当社では70歳以上の高齢ドライバーでも、年収が600万円を超える者がおります。20代でも年収500万円は決して夢ではありません。勤務体制も柔軟で、条件が合えば1カ月の半分だけ出勤するといった働き方が可能です。シングルマザーやシングルファザーの人も、子供さんが熱を出した時などに早退しやすいのでは。勤務時間の調整がしやすく、職場の人間関係を気にしなくていいのは大きな魅力でしょう。

平岸タクシーの社内の様子
さまざまな経歴を持った従業員が和気あいあいと働いています

年齢を問わず活躍できる環境は素晴らしいですね。

人生100年時代ですし、地域の皆さんが年齢を問わず、雇用の場としてタクシー会社にもっと注目してくださったらと期待しています。豊平区平岸は6万人の住民が暮らしているエリアです。働く人も利用する人も地域の人であれば、地元の満足度と幸福度をさらに上げていけるはず。そうなったら、また違う世界が見えてくると思うんです。

伸びしろしかないと言い切れる今、明るい未来目指して

平岸タクシーが参加する地元イベントの様子
地域のイベントに積極的に協力。地域清掃活動や交通安全啓蒙活動も行っています

理想の街づくりについて、将来構想をお聞かせください。

平岸はすすきのから車で5分という好立地に加え、総合病院や大学、専門学校もあり、暮らしに必要なものすべてがそろっています。この街で当社がやりたいことがある人や、相談相手が欲しい人のお役に立てたら。すでに民生委員からの高齢者対策の相談に乗っています。タクシー会社は地域に絶対必要とされる存在。伸びしろしかない業界だと考えています。

タクシー会社が地域のプラットフォームになるわけですね。

平岸を「北海道の住みたいまち」ランキング1位にしたいですね。企業としては日本で一番ドライバーの平均売り上げが高いタクシー会社を目指します。ドライバーは他の仕事を経験した人が、第2、第3のキャリアとして選ぶことが多いので、タクシー業と転職前のスキルや経験を生かせる企業内副業を組み合わせて、年収アップを図るのもいいですね。タクシー業で開業資金を貯めながら、お客さんと人脈づくりをすることもできるのでは。

そういうユニークな発想はどこから生まれるのでしょうか。

タクシー業の現場は専務がしっかり見てくれているので、私は会社の発展に繋がる可能性のある事業に力を注いでいます。青年会議所など数多くの団体で出会った人たちに助けられ、飲食事業やエンタメ事業から、地元の学生たちと共に運営するマルシェ、有料駐車場の運営へと業務の幅が広がっています。おかげさまで、2年間で40回以上メディアで「札幌で頑張っているタクシー会社がある」と紹介される機会に恵まれました。

(取材・撮影:北山大樹、文:三本木香、編集:片野睦)

インタビューに応えてくれた人

神代晃嗣さん
平岸ハイヤー株式会社 代表取締役 神代晃嗣さん

1977年札幌生まれ。日本大学経済学部卒。2018年に家業の平岸ハイヤー株式会社を継承。かつて平岸市民に愛されていた施設を再利用し、交流拠点をつくる株式会社AppleLodgeも立ち上げたほか、株式会社川見のCEOとしても活動。豊平川の幌平橋近辺河川敷を中心に構造改革特区取得を目指している。