有限会社西岡メディカル薬局 代表取締役・庄田勝哉さん|医療業界の一員として地域に寄り添い、支える薬局を目指して
札幌市内近郊に5店舗、秋田市内に3店舗を展開する「西岡メディカル薬局」は、各市内近郊の病院と連携し、地域の患者に貢献できる調剤薬局として、在宅医療や地域セミナーなどにも力を入れています。先代である父の会社を継いだ代表取締役の庄田勝哉さんは、従来の薬局の在り方を変え、従業員と共に心豊かで健康的な地域社会の形成に取り組んでいます。
先代が苦労して築いた会社と、従業員の生活を守る重責を背負って。
西岡メディカル薬局は元々、庄田さんのお父様が始めた会社だそうですね。継承したきっかけは何だったのでしょうか?
私は元々、医薬品卸の仕事をしていました。やりがいもあって楽しかったのですが、大手だからこそメーカーのことも考えなくてはいけなくなり、病院や患者さんを第一にできないことに悩んでしまったんです。そんな時、父が店舗を増やして手が足りないから来てくれと声をかけてくれました。サービス業でもある薬局なら、患者さんに寄り添って働けると転職を決意しました。
お父様の薬局ですが、魅力を感じていたところはありますか?
私が中学生の頃、先代である父が「今この会社があるのは、従業員のおかげだ。俺の儲けはいいから、利益はできるだけ従業員に還元したい」と溢したことがありました。まだ医薬分業のはしりの時代に父は起業しましたから、最初はいろいろな障壁があり、経営が上手くいきませんでした。それが従業員のみなさんの頑張りで乗り切れたから、感謝してもしきれなかったのでしょう。感謝の気持ちを忘れないという気持ちが本当に理解できますし、父のその姿勢を私も継いでやっています。
従業員の一人として働いた後、社長に就任していますが、実際経営者になってみていかがですか?
従業員はお客様のため。私は経営者として従業員とその家族のためにも働いています。従業員とその家族を含めると200~300人の生活を背負うことになりますから、重責ですね。それに、先代が育てた会社を継ぐというプレッシャーも大きいです。25年間のしっかりした土台を壊して、お客様や従業員を手放してしまうのではと不安でした。経営経験がない私ですが、地域の方と従業員の喜ぶ顔のために、自分だからこそできることを見つけてチャレンジしています。
薬に関係ないことも相談できるドイツの薬局を見習う。
庄田さんが社長に就任後、会社で何か変えたことはありますか?
今から10年ぐらい前までの調剤薬局は、処方箋をもとに薬を用意して、カウンター越しに接客するのが主な業務でした。一所懸命勉強して、薬剤師の資格を取って、お医者さんより薬の知識はあるのに、それだけなのはもったいないと感じ、カウンターを越えてお客様と接しようと地域のためになるような薬局を目指し始めました。
店舗ごとに何か特色を出したのでしょうか。
野幌店は通勤・通学の前に立ち寄れるよう病院と連携して朝7時半から営業しています。札幌市内の札幌店、水源地通り店、みなみ店の3店舗は、同じ通りに並んでいますが患者層が異なるので、現場の判断で地域に合ったサービスを提供するように指導しています。例えばみなみ店のお客様はほぼ60歳以上ですが、親御さんが子連れで薬をもらいにきたことをきっかけに、小さなキッズルームを作りました。近くに小児科がないので要らないと思われるかもしれませんが、みなさん子供を見て「かわいいね」と喜んでくれています。
地域密着の薬局として、何か手本があったのでしょうか。
お客様の不安を薬で埋めるのが薬局ですが、病気やケガに関わらずどんな小さな困りごとも取り除きたいんです。笑ったり楽しい時間を過ごしたり、心の健康になることをどんどん提供したい。ドイツの薬局がそういう立ち位置らしく、イルカの生態とか薬局に関係ないことも気軽に聞けるんですって。それって、とても素敵なことですよね。それに30年近くこの薬局を続けられたのは、それぞれの地域の病院やお客様があってのことですから、恩返しもしたかったんです。
在宅医療進出など、地域と病院を支える薬局の大きな可能性
「この薬局なら何でも相談できる」と思ってもらうために行っていることは?
薬局や薬剤師を身近に感じてもらうために、異業種と連携した地域セミナーを始めました。美容師さんに骨格に合う髪型やマスクを着けても素敵なスタイルのレクチャー会、女性向けの漢方セミナー、当社の管理栄養士の資格を持つ事務スタッフによる栄養相談会などです。セミナーには必ず、「お薬相談会」もセットで開催し、薬の相談を何でも受け付けています。例えば目薬だと、保存期間や1回に差す量など、「当たり前かもしれなくて、聞けなかったこと」にも丁寧にお答えしています。
「キッズファーマシー」というワークショップも開催していますね。
子供たちにも身近な存在でいたいので、薬剤師体験をしてもらっています。薬に似せたお菓子を一包ずつ入れもらい、「朝と昼は飲んで、夜は飲まないでください」「食べたら歯磨いてくださいね」みたいなことを親に説明してもらっています。このほかにも、中学校の職業体験、大学生の実習を受け入れているので、一人でも多くの子供たちが、薬剤師になるきっかけ作りができたらいいなと思って取り組んでいます。
近年では、在宅医療にも力を入れているそうですね。
先生が診察へ行く際、一緒に患者さんを訪ね、処方できる日数など、薬に関しては任せてもらっています。先生は月2回とか週1回しか訪問できないので、私たちが定期的に通い、患者さんのバイタルを測り、薬が飲めているかどうかなど聞いています。患者さんの中には、先生に直接話せないこともあるので、私たちが間に入ることもあります。
先生と患者両方の負担を減らせますね。
在宅医療を受け、最期を迎えていく患者さんの最期に関わるのは悲しいことでもありますが、絶対に必要なこと。患者さんが悔いなく過ごせるよう、お医者さんと協力して薬の面からサポートすることは薬局にとって医療業界で働く意義でもあります。
地域のためにできることを社員一人ひとりが考えて行動。
従来の業務の域を越え、地域の医療業界に貢献できているのは、スタッフのやる気もきちんと引き出せているのではないでしょうか?
「お客様の健康と満足が第一」という行動指針を全員が意識し、従業員が自ら考えて行動しています。先ほどお話したキッズルームの開設やセミナー開講、栄養通信の発行などもその一つです。指針に沿っているなら失敗してもいいんです。どんどん挑戦しようと伝えています。
自発的な従業員育成のために、研修や資格取得の費用は全額負担なのですね。
「新しく得た知識や資格を地域に還元、貢献しましょう」という目的で、資格取得者には手当を出しています。例えばスポーツファーマシストの資格です。ドーピング対象の薬品が目薬や漢方薬といった市販薬に含まれていると知らず、摂取している場合が多いのですが、すぐに相談できる薬剤師がいれば安心ですよね。
研修制度を利用できるのは薬剤師だけでしょうか?
今は薬剤師でなくても、登録販売者の資格を持っていれば販売できる薬が増えました。薬剤師の従業員が励んでいる姿を見て、事務員がこの資格を取得して「私たちももっとやろう」「もっとお客様と接しよう」というやる気に繋がっています。
庄田さん、従業員のみなさんが一丸となって会社を成長させているのですね。
当社では人事考課を年2回行っていて、従業員の成長を感じられた時はもちろん、充実した生活を送ってくれていることも私にはうれしいことです。当社は実習生がそのまま入社することが多く、学生だったスタッフが結婚したり、家を買ったり、子供が生まれたりすると、親心でうれしくなっちゃって。仕事でもしっかり目標に向かってアプローチできるようになり、しっかり結果が付いてくるようになると本人も私も次のステップが楽しみになります。
インタビューに応えてくれた人
- 趣味:
- バスケットボール、ゴルフ、スノーボード、スニーカー収集
1976年札幌市生まれ。1999年に道都大学(現・星槎道都大学)社会福祉学部卒業後、医薬品卸業株式会社モロオに就職。36歳の時に家業である有限会社西岡メディカル薬局に転職し、2015年に代表取締役就任。