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北一ミート株式会社 代表取締役・田村健一さん|古い会社の体制を一新し、若い世代が情熱を持って働ける場へ

札幌圏
素材・化学・食品・化粧品等メーカー
北一ミート株式会社 代表取締役・田村健一さん

1979年に札幌中央卸売市場で創業した北一ミート株式会社は、食肉卸を中心に、食肉の加工・販売。近年では、帯広畜産大学と熟成肉の共同研究も進めています。2代目の代表取締役・田村健一さんは従業員のやる気が会社のためになると考え、体育会系だった古い経営体制を改革。今の時代に合った職場環境づくりに努めています。

食肉卸のほかに、商品開発や熟成肉研究に力を入れる

北一ミート株式会社の向上の様子
工場内は13~15℃に保たれ、加工室は気圧を制御する陽圧管理で外部からの異物混入を防ぎます

御社はどんな事業を展開されていますか?

当社は、食肉卸や食肉の加工・販売、自社製品およびOEMといった他社商品の開発に取り組んでいます。2023年度の売上22億5千万円のうち、約20億円は食肉卸です。仲卸はもちろん飲食店などお肉でビジネスをされている約2000件の取引先へ、高品質でおいしい商品を届けています。残りは、熟成肉や、パテ、テリーヌといったシャルキュトリーなどの売上です。

北一ミート株式会社の熟成肉製造の様子
熟成肉をつくりたい顧客のために、帯広畜産大学と共同で製造方法を研究

商品開発には自社製造の「サッポロクラフト生ハム」もありますね。

札幌は夏は暑すぎず、湿度もそれほど高くなく、冬は雪で程よい湿度があるので、非加熱でうまみを出す長期熟成の生ハムには適した場所です。コロナ禍を機に今が始め時だと挑戦し始めました。実は生ハムは製造の難易度が高く、国内の商品はスペインなどからの輸入品がほとんどです。製造ガイドラインはあるのですが、その通りに作るとしょっぱすぎて食べられたものではありません。そんなどの工場も作ろうとしない生ハムを量産したら、いい意味で「バカな肉屋だな!」と笑ってもらえると思ったんです。

帯広畜産大学と熟成肉の製造を研究されているそうですね?

「購入した熟成肉を作りたい」という取引先のため、安全でおいしく、安定して製造できるように共同研究しています。一度、自社だけで挑戦してみたのですが、世の中に出回っている製造方法では上手くいかず、大学の科学的な知見をもらいながら研究することにしました。当社では熟成肉の販売はしていませんが、当社直営の飲食店「ニクヤガボタイ」(札幌市)で提供しています。熟成肉も生ハムも事業規模は大きくありませんが、新たな製品づくりに取り組むことで食肉卸事業との相乗効果が生まれ、会社の信頼向上に繋がると信じています。

従業員の意見を尊重し、早朝から仕事のある営業部は週休3日制を導入

北一ミート株式会社の研修の風景
「社員のモチベーションが大切」と、やる気がアップする研修を実施

田村さんはこれまで他の企業には就職せず、家業である北一ミートに入社していますね。

当社は1979年に、先代である私の父が札幌中央卸売市場で創業し、私は特に理由はなく物心つく頃から家業に入ると決めていました。実際に入社すると、会社は良くも悪くも怒号が飛び交う体育会系で昭和体質。仕事は苦しくても我慢するものなのか?と疑問を持ちながら働いている中、青年塾や倫理法人会などの社外活動に参加する機会がありました。そこで当社が異質だと実感し、社内に問題意識を強め、改革を進めました。

他社の経営者から何かアドバイスなどはあったのでしょうか? 

先輩経営者から「1カ月間、社長の一挙手一投足を観察するといい」というアドバイスをもらいました。先代の行動や考えの理由を積極的に聞くうちに、先代が会社に対する熱い想いが伝わってきました。会話を通して互いに理解を深め、それまで以上に仕事を任せてもらえるようになり、2019年には私に社長の座を譲ってくれることになりました。

新体制になって、会社の古い性質を変えるためにどんなことに取り組みましたか? 

会社を辞めたくなる理由の「ノルマ」「嫌な上司」をなくすために、2012年に営業ノルマを撤廃。「ボスはノルマにする。リーダーはゲームにする」をモットーに、組織の上に立つ者はボスではなく、リーダーとして育成しています。また、社員一人ひとりが時代に合った考え方を持てるよう、採用から見直しました。社員が育っていくにつれて、社内の体制は良い方向へと変化し、売上も伸ばすことができました。体制の変化に対応できず、去っていく人もいましたが、今は上司や部下、役職は関係なく、フラットな関係を作れていると思います。

北一ミート株式会社の社員たち
肉に情熱と探求心を持ち、サービス精神旺盛な明るい社員たち

ほかにも御社ならではの社内環境づくりはありますか?

配送などの都合で早朝6時半から仕事が始まる営業部は、2022年から完全週休3日制を導入しています。従業員に意見を求めたところ、一日の労働時間を少なくして週休2日制にするより、労働時間が長めでも週休3日が良いという結果になりました。現在の一日の勤務時間は12時間程度です。6年連続で離職率が0%になったこともありました。

2024年には、経済産業省日本健康会議の「健康経営優良法人」(中小規模法人部門)にも選ばれています。具体的にどんなことに取り組んだのですか?

社員の一人が提案してくれた、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する取り組みです。職場環境の整備や定期健康診断、ストレスチェックなどを行いました。工場勤務は腰痛になりやすいので、専用のアシストスーツを着て作業したり、腰に負担が来ている従業員を特定できるAIカメラを導入したりしました。

働きやすい環境を整えてもらえると、社員のモチベーションは上がりますね。

社員のモチベーションは会社にとってはプラスになりますので、研修にも力を入れています。今後会社を引っ張っていってくれそうな3人に、東京で5店舗分のステーキを食べ、おいしい肉とまずい肉を体験して欲しいと伝えました。任された社員が他店を見てやる気がでるのはもちろん、他の社員も「次は自分が選ばれるんだ!」と一所懸命仕事に取り組むようになり、頑張っている先輩社員にはオーストラリアへ海外研修に行ってもらいました。社員のやる気が社にとって価値があるものなので、今年はニューヨークでの研修も考えています。

100年後も社員が情熱を持って働ける土台をつくる

2018年に新設した北一ミート株式会社の社屋
2018年に新設した北一ミート株式会社の社屋

会社の体制としても、何か変えていく予定でしょうか?

100年後も社員がエキサイティングに働いている会社にしたいので、今後は社長と専務、2人の常務の4人体制で経営していくつもりです。また、私が56歳になる2032年には、40代の社員に社長業をバトンタッチしたいと思っています。その年代ならアクティブで面白いことにチャレンジできますし、より若い世代に対して求心力もありますしね。

どんな風に社長業を引き継いでいきたいとお考えですか?

私が社長を引き継ぐ時、専務として先代の想いをきちんと社員に伝えられず、先代を立ててあげられなかったことは、今も悔いています。その反省もあって、私が社長の席を譲る時には、仕事のモチベーションが上がる人事ができるよう、社員全員に本人の役職希望や次なる社長の適任者を聞こうと思っています。社員満場一致の人事にしたいですね。

(取材・撮影:北山大樹、文・編集:片野睦)

インタビューに応えてくれた人

田村健一さん
北一ミート株式会社 代表取締役 田村健一さん
趣味:
靴磨き、トイレ掃除、生ハムづくり、スノーボード

1976年札幌市生まれ。石狩南高等学校を卒業後、1995年に家業である北一ミート株式会社に入社。営業部長、専務を経験し、2019年に代表取締役に就任。