SOCブルーイング株式会社 代表取締役・坂口典正さん|広島県人が見知らぬ土地で始めたクラフトビール工房の成功ヒストリー
「NORTH ISLAND BEER」を製造・販売し、北海道のクラフトビール工房の草分け的存在で知られるSOCブルーイング株式会社(江別市)。創業者で代表取締役社長の坂口さんは、自分好みのビールを造る「マイビール工房」を立ち上げるため、北海道に移住しました。見知らぬ土地での創業やコロナ禍といった苦労を経て、北海道を代表するクラフトビールメーカーになった経緯に迫ります。
北海道ブランドに惹かれて移住し、自分好みのクラフトビールを造る
坂口さんは広島県出身ですが、なぜ北海道に移住し会社を立ち上げようと思ったのですか?
那須高原近くのゴルフ場に勤めていた時、職場の同期に「北海道でマイビール工房を立ち上げよう」と持ちかけられたのがきっかけです。北海道には縁もゆかりもなかったのですが、北海道のブランド力がすごいことは仕事で知っていたので、彼の事業計画に興味を持ち、移住して会社を立ち上げました。
北海道のブランド力の強さを実感したのは、どんな時ですか?
前職の業務はフロント業務や財務、オープンコンペの企画を担当していたのですが、コンペの集客が伸び悩んでいた時、北海道をテーマにしたコンペを企画しました。優勝者にはペア旅行、ほかの賞には北海道の特産品にしたところ、過去とは桁違いの反響に驚いた経験がありました。
ゴルフコンペの賞品で反響を感じ、北海道に興味を持たれたのですね。実際、北海道に来てみていかがでしたか?
私と事業を持ちかけた同期のほかに、北海道出身のビール職人2人と事業を始めたのですが、私にとっては見知らぬ土地ですから、ゼロからのスタートです。物件探しにも工場免許の取得にも苦労しました。さらに、創業の翌年には社長だった同期が抜けることになり、私が社長にならざるを得なくなりました。
創業の翌年に経営者になったのは、さらに苦労されたのではないでしょうか。
想定外の出来事でしたよ。経営のノウハウがまったくなかったので、勉強会に行きました。事業も苦しい時期でしたので、私の肩書きは社長でも、アルバイトと同じ仕事をしていました。
事業が軌道に乗ったのはいつ頃ですか?
2009年ごろからですね。全国のクラフトビールコンクールで金賞を取れるようになり、大量生産のために札幌市から江別市に移転したのをきっかけに、マイビール工房からクラフトビールメーカーに転身しました。2010年には、全国の百貨店で開催される北海道物産展に出店し、売上が安定しました。
卸売りメインのビジネスモデルを消費者メインに変え、コロナ禍を乗り切る
コロナ禍では、ビールを卸していた飲食店が休業し、物産展も開催されず、大打撃を受けたとお聞きしました。どのように乗り越えたのですか?
右肩上がりに売上を伸ばしていたのに、一転して経営の危機に陥りました。現状維持のままでは衰退してしまいますから、このまま何もしないのはダメだと、コロナ禍真っ只中の2020年5月にECサイトをリニューアルしました。その理由は、物産展や飲食店を経由し、お客様にビールを飲んでもらうこれまでの流通に加え、お客様の自宅に直接届けるためです。このビジネスモデルに舵を切って、再始動することにしました。
ビジネスモデルの変更で経営を立て直し、従業員を解雇せずに済んだそうですね。
はい。銀行からの借り入れや助成を受けながらですが、誰一人、解雇することも減給することもなく、苦しい時期を乗り越えられました。スタッフ全員が現状に甘んじず、少しでも上を向いて進もうとした結果だと思います。
御社ではスタッフのみなさんが一丸となって、会社を支えているのですね。
そうですね。現場はそれぞれの部門に任せています。スタッフにも、この会社で自分の夢を実現してほしいという想いが強いです。
坂口さん自身、スタッフを信頼し、大切にされているのでは?
社長の役割といったら、会社を経営し、働きやすい環境を整え、何かあった時は責任を取ることです。私にとっては、お客様から「ビールがおいしい」と言っていただけることと同じくらい、やりがいを持ち笑顔で働いているスタッフの姿を見ることがうれしいです。
世界中の人たちが来日したくなるおいしいビール造る
御社では、札幌市内中心部に「Beer Bar NORTH ISLAND」をオープンしています。なぜ飲食店も始めたのですか?
国内のお客様はもとより、海外観光客など多くの方に、クラフトビールと北海道の食材を使った料理とのマリアージュを提案したくて始めました。
今や北海道を代表するメーカーになりましたね。今後の展望を教えてください。
海外の人が来日するきっかけになるビールを造ることです。世界中の人たちに、北海道にはおいしいビールがあることを知っていただき、北海道に来てもらいたいんです。その取り組みの一つとして、工場自体を観光地化する計画があります。飲食ができて物販もある、道の駅とビール工場が合体したような施設を考えています。
インタビューに応えてくれた人
広島県広島市出身。栃木県那須高原近くのゴルフ場でフロント業務や企画、財務を経験した後、北海道でビール工房を開くため退職。2002年5月に札幌市で有限会社カナディアンブルワリー(現在の SOC ブルーイング株式会社)を創業。翌年8月に社長に就任。2009年に本社兼工場を江別市に移転。