株式会社キャストリポート 代表取締役・掛橋愛理さん|TV局のキャスターとディレクターを経験し、北海道では数少ない広報PR会社を創業
北海道や東京のNHKなどで、14年近く生放送のキャスターや制作ディレクターとして働いた掛橋愛理さんは、仕事で培った社会の課題解決の視点を大切にし、2022年に広報PRと司会・MC事業を行う株式会社キャストリポート(札幌市)を立ち上げました。広報PR支援事業では取材力や伝える力を生かし、企業の社外広報としてプレスリリースの作成を代行し、メディア取材につなげたり、ECサイトの売り上げを2倍にするなど、企業の認知拡大やブランディングの成果をあげています。
ゼロからコンテンツを作るキャスターの仕事を事業に生かす
まずは貴社の主な事業について教えていただけますか?
弊社では私の約14年間のキャスター経験を生かし、座談会のファシリテーターをはじめとする司会業や、経営者のスピーチ力を強化するプライベートレッスンを実施しています。また、企業の広報PR支援では、テレビやラジオ、雑誌といったメディアの取材につながるプレスリリースの作成代行も行っていて、商品やサービス、企業の魅力や価値を多くの方へ届けています。
貴社が作成したプレスリリースには、取材依頼が入るそうですね。何かポイントがあるのでしょうか?
広報PRの施策はメディア露出がすべてではなく、他にも様々な方法で認知の拡大ができますが、それでも、取材による認知拡大の影響は大きいです。メディアの方たちは、「多くの読者や視聴者に知らせる価値のある情報だ」と判断したものを取材します。弊社では私自身の番組制作の経験から、メディア側の視点でプレスリリースを作成しています。企業からヒアリングした商品やサービスに対する想いや、メディア担当者が知りたい情報を漏れなく、分かりやすくまとめているのが特徴です。メディアは企業の宣伝につながる話題を取り上げませんから、売り込みのような文章でないのもポイントです。弊社が作成したA4サイズ1枚のプレスリリースを見れば、記者の方でしたらきっとニュース原稿が書けてしまうと思います(笑)。
取材する側であるメディアに親切なプレスリリースは助かります。
北海道には、メディアが取り上げたくなるような魅力あふれる会社や商品・サービスが、たくさんあると感じています。私自身、TV局勤務時代に「出会いたかった!」と思うものばかりです。でも、北海道の中小企業の中にはそうした広報活動に予算を割いていないことも多いのが現状です。商品やサービス、会社の存在を知ってもらうために広報活動は必要ですが、費用対効果が見えにくく、優先順位が下がってしまっているようなんです。一方で、広報活動が広告とは違う認知拡大の方法だと感じて、取り組まれる企業も少しずつですが増えています。弊社にお問合せいただくお客様には、会社の魅力や価値を必要な人に知ってもらえる方法などをお伝えしています。
取材やインタビューのスキルを役立てられる広報支援との出合い
キャスター時代についてお伺いします。約14年間でさまざまな経験を積まれたそうですね。
2003年の25歳の時に、NHK室蘭放送局の夕方の情報番組のキャスターに起用されました。この放送局は当時、全国一規模が小さかったので、“キャスター”といっても記者として取材に出たり、旅番組ではリポーターとディレクターを兼務したり、短いリポート番組では編集作業も担当しました。その後、2008年に上京してNHKBS1「経済最前線」のキャスターや経済専門チャンネルのキャスターなども経験しました。2014年に北海道に戻ってからは、NHK札幌放送局で「ほっとニュース北海道」のフィールドキャスターやドキュメンタリー制作、お昼前の情報番組のMCなど、テレビ番組の制作を一通り経験しました。
大変充実されていたと思いますが、起業のきっかけは何だったのですか?
2018年に出産した息子に先天異常の軟口蓋裂があり、1歳を過ぎた時に手術をすることになりました。今では先天異常があったことを忘れそうになるほど元気に成長していますが、当時は担当していたお昼前の情報番組のMCを3カ月ほど休むことになり、結果としてそれが自分の働き方を見つめ直すきっかけにになりました。その後、術後のケアなど子育てに専念するため2020年にフリーランスになったのですが、法人や大学、行政機関からのご依頼も増えてきたため2022年に個人事業主をやめ、会社を設立しました。
キャスターとしての仕事が順調だった中、お子さんの手術が大きなターニングポイントになったのですね。法人化するにあたり、どんなことを大切に仕事しようと考えていたのでしょうか。
フリーランスになったのは41歳で、「ちょうど人生の折り返し」と感じていました。「ここからは、これまでの約14年間でお世話になった視聴者の方に、私が放送業界で学んだことを還元して役に立ちたい」という気持ちが大きかったです。今もその気持ちを大切に仕事をしています。
どんなときに経営者としてのやりがいを感じますか?
広報PRのご支援の中で、メディア取材が決まった方に取材前の「リハーサル」をすることがあるのですが、クライアント企業からは「こういう準備をしたのは初めて」「取材前のメディアトレーニングがすごく役立った」と言っていただいた時はとても嬉しいです。 スピーチ力が上がれば、会社に対する思いや商品・サービスの魅力がより伝わりやすくなり、経営にも広報活動にも良い影響が出ます。その力添えができるよう、ご相談が多い経営者の方のスピーチレッスンには、これからももっと力を入れたいですね!
もう一つの事業である司会業の展望もぜひ教えてください。
司会の分野では、医療や学術系の全国規模の大会などからご依頼いただくことが多いです。東京から司会者を呼ばなくても、札幌でも場のリテラシーに応じた進行ができるフリーアナウンサーの会社があるということを、もっと知っていただきたいですね。そして、同じように「価値提供」の視点をもった司会者を育てていきたいという想いもあります。メディア経験者のキャリアチェンジの選択肢の一つを提供できるように頑張りたいです!
社会課題解決の視点を持ち、道内企業の魅力を伝える
掛橋さんはキャリアを生かしてPRの支援をされていますが、広報活動で大切なことは何か教えていただけますか?
商品やサービスを買う可能性のあるお客様だけに限定せず、広く価値を伝えることが、広報PRの活動の考え方の基本です。その際、サービスや商品が、世の中の困っている人をどう助けるかという、社の課題解決の視点を大切にしてほしいと思っています。例えば「このコーヒーは○○という特徴があっておいしいです」だけだと、コーヒーが好きな人にしか興味を持ってもらえません。特徴のほかに、「○○という悩みや問題を解決できる。だからこの商品を販売しています」と社会課題の解決を含めたストーリーを伝えることができれば、より多くの方が商品・サービスに共感し、興味を持ってくれるはずです。
そうした視点を持つには、どうすればいいでしょうか?
もともと、すべての商品やサービスは「困っている人を助けたい」「不便を解消したい」という、社会の課題解決がきっかけで生まれているはずです。その原点をぜひ思い出していただけたらと思います。私自身、放送局勤務の約14年の間に、のべ1000人以上にインタビューし、その価値を見つけ、表現してきました。「社会の課題解決の視点が分からない」「うまく言葉にできない」という方の中にも、そうした価値は必ずあります。お困りの際にはご相談いただければお力になれると思います!
北海道の中小企業へPRのアドバイスをお願いします。
北海道にはいいものがたくさんありますが、伝えなければ「ないことと同じ」です。みなさんの商品やサービス、会社の想いを大きな熱量を込めて発信していってください。それが「PR活動」です。企業のPR力が上がり、北海道がもっともっと元気になれば、そこに暮らす私たちも地域の魅力や価値をより感じられるようになります。未来を担う子どもたちによりよい北海道を残すため、私自信も広報PRに取り組む企業が増えるよう、支援を続けていきます!
インタビューに応えてくれた人
1978年生まれ赤平市出身。高校卒業後、南イリノリ大学新潟校に1年在籍し、就職。営業やイベントコンパニオンを経験し、25歳でNHK室蘭放送局のキャスターに起用。2008年からは東京、2014年からは再び北海道のNHKでキャリアを重ね、2022年に株式会社キャストリポートを設立。主な出演番組はNHK室蘭「いぶりDAYひだか」、NHKBS1「経済最前線」、NHK札幌「ほっとニュース北海道」「つながる@きたカフェ」ほか。5歳の息子と夫の3人暮らし。札幌在住。