株式会社森田興業所 代表取締役・石川康夫さん|定山渓の水道を100年支える信頼の技術-石川社長が語る“営業命”と生き残り戦略

株式会社森田興業所は、北海道の定山渓エリアを拠点に水道設備工事と土木工事を手掛ける、創業100年以上の歴史ある企業です。定山渓エリアで100年以上続く同社は、地域にとってなくてはならない存在として、多くの信頼を得てきました。3代目代表取締役・石川康夫さんは、「良い仕事をする」ことをモットーに、厳しい入札競争を乗り越えながら経営を続けています。
近年、業界全体で少子高齢化による人材不足が課題となる中、公共インフラの維持や更新需要は高まっています。その中で水回り工事に強みを持ち、地域に密着した事業運営を行う同社。今後もお客様の要望に応え、未来に向けての安定した事業展開を目指しています。
創業100年、受け継がれる水道設備工事の伝統

御社のメイン事業について教えてください。
当社のメイン事業は水道設備工事です。基本的には水道設備工事が中心ですが、広い意味では土木工事に分類されます。札幌市内での水道工事がメインで、仕事の7~8割は札幌市の工事です。もちろん、民間の工事にも対応していて、例えば定山渓温泉の温泉管を引き入れるような温泉設備の工事も行っています。このエリアで土木工事を行う会社は少なく、特に水道工事に関してはうちがメインで対応していますね。
創業は大正3年ということですが、北海道で100年を超えている企業って本当に一部と言われていますよね。
ええ、そうですね。初代は「土木でも何でもやらなきゃ食えない」という時代の中でスタートしました。その中で、配管工事を得意分野とし、井戸を掘るなど水回りの工事を手掛けるようになったんです。特に、豊平峡ダムの水路に穴をあけ、下町の温泉設備や近隣のホテルに水を引いたことが、事業の大きなきっかけとなりました。今もその流れを受け継いでいて、水回り工事がうちの強みです。
「営業命」入札競争で生き残るための苦労と戦略

経営者としての苦労や心構えについて教えてください。
いろんな経験をしてきましたね。たとえば、仕事を取る段階でも苦労が多かったです。この地域は1年の半分は雪の影響で工事が休止になります。だから、雪が溶けたらすぐに水道メーター交換を始めます。このメーター交換は法律で8年ごとの実施が義務付けられており、素人にはできません。春先の大仕事ですね。その後は水道管の入れ替え工事などが続きます。いろんな工事を手掛ける中で、仕事をどう取るかが重要だと感じています。仕事がなければ会社は成り立ちませんから。
新しい仕事を取るために、社長自らが奔走されていたんですね。
営業は本当に大変でした。仕事の取り方も時代に合わせて変わりましたが、今も厳しいです。入札事業では50社規模で競り合うため、まるで宝くじを買うようなものです。年間50件くらい入札して、1件決まるかどうか、くらい。1円でも安ければ他の会社に取られてしまいますから。
そのこだわり、モットーとしては「営業命」という感じでしょうか?
まさにその通りです。誰かに頼むこともできませんし、仕事を取ってこないとお金が回りません。だから、綺麗な仕事、良い仕事をしないといけませんよね。「あそこの会社はダメだ」と言われたら、仕事は回ってこなくなります。
我々は今組合の理事をしているんです。この業界には大きな会社は少ないけれども、組合には多いときで350社ほどの企業があり、毎年そのうちの10社ずつくらいが入れ替わります。なくなる会社もあれば、新しい会社も入ってきます。その中で今残っている会社は本当に大したものだと思います。新しい仕事を取って、良い仕事をして生き残ることが大事です。
ゼロから作り上げる仕事のやりがいと末代に渡る責任

仕事にやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
我々の仕事はゼロからものを作っていく商売です。それが、自分の思惑通り、あるいは設計者の意図に沿った形で完成することは素晴らしいことだと感じます。
一般の利用者から直接目に見えるわけではないけれど、自分たちの手によってそれが完成したということにやりがいを感じられるんですね。
そうです。そういう時が一番やりがいを感じます。1年や2年で終わるものではなく、末代に渡るものだからこそ、きっちりした仕事をしなければならないと感じています。後から問題が起きないように、しっかりとした工事をすることが一番大事だと思っています。
定山渓エリアを拠点にした事業展開と、リスクを予測した慎重な経営方針

これからの事業展開について、どのように考えていますか?
それはすごく難しいですね。どの業界も、明日どうなるか分からないと思っています。しっかりお客さんとの関係を築き、その要望に応えることで次の仕事につながりますが、それも保証はありません。
たとえばこの業界では防災事故が起きると、その影響は非常に大きく、致命的です。今の時代、安全設備をしっかりと整備することが求められています。普段から当たり前のようにやっていることでも、実はその準備は決して簡単なことではありません。工事を進める中では、さまざまな仮説を立ててリスクを予測しなければならない。その中で利益を上げ、スタッフや資材費をきちんと支払うためには、全体を見渡してトータルで考える必要があります。
材料費も上がっていますよね。
はい、年商が10億円や20億円になるとスタッフも増やさなければなりませんから、大変です。無理せず、背伸びはしないようにしています。
あくまで定山渓エリアが拠点ということですね。人口は減少していますが、利用者は多いエリアですよね。
そうですね。ホテルや観光で利用者がたくさんいます。たとえばホテルの配管が壊れた場合、他の業者では対応できないことが多いので、うちが対応しています。
地域にとってなくてはならない存在になっていますね。
はい、役所でも「定山渓エリアの配管は森田に聞いてください」と言われることもあるんです(笑)。図面化して竣工図として残そうとしていますが、実際には古い設備も多く、口頭で説明することもありますね。
インタビューに応えてくれた人

- 趣味:
- ギターとゴルフ
1951年生まれ。札幌市出身。月寒高校を卒業後、北海道工業大学(現北海道科学大学)で学ぶ。1976年に日糧製パンに入社し、東京都町田市で製造部門に従事。結婚を機に1984年頃、森田興業所に入社。現在、同社の3代目社長として10年が経ち、水道設備工事を中心とした事業を展開中。また、定山渓エリアで有限会社丸井リゾート観光を経営し、定山渓温泉に関する観光業にも携わっている。